2026年に入り次から次へと繰り出される、Anthripic社をはじめとした革新的なAIツールの登場によって、テック業界は一つの「熱病」に侵されています。
それは「SaaS全滅論」です。

Anthropicの最新モデルやClaude Codeの進化により、「月額料金を払ってSaaSを使う時代は終わった。これからはAIで自前実装する時代だ」という過激な言説が、SNSで連日のように議論されています。
しかし、その「自作ツール」は本当にビジネスの荒波に耐えられるのでしょうか?
AI実機検証メディア「Aixis」代表として、私はあえて「AIに自作させたSaaS代替ツール」の嘘を暴く実証実験を行いました。
結論から言えば、AIが10分で書き上げた「完璧に見えるコード」の裏には、経営を揺るがす致命的な爆弾が潜んでいました。
実験:10分で完成した「グローバル会計SaaS」
実験の舞台は、年商5億円規模の中堅IT企業を想定した「キャッシュフロー管理ツール」の開発です。
複雑な日本のインボイス制度、外貨建て取引の隠れコスト分析、そして税務上の肝である減価償却シミュレーション。
これらを網羅したツールをClaude Codeに命じたところ、わずか10分足らずで1200行を超えるPythonコードが生成されました。


一見すると、アーキテクチャは整理され、専門用語を完璧に使いこなした「プロ仕様」のツールに見えます。
しかし、Aixisの視点で「検収」を行った結果、AIの「知ったかぶり」が次々と露呈したのです。
暴かれた3つの致命的な欠陥
AIが差し出してきたコードには、実務経験者が見れば絶句するような欠陥が含まれていました。
※スクリーンショットの内容は、AIが生成したコードに対して欠陥の内容を筆者が追記しています。
1. インボイス制度「経過措置」の無視(納税額の誤認)

AIが書いたロジックは、「適格請求書発行事業者なら10%控除、そうでなければ0%」という、極めて単純な二択でした。
- 欠陥の内容: 2026年現在、免税事業者からの仕入れでも一定期間は80%(または50%)を控除できる「経過措置」が存在しますが、AIはこれを完全に無視していました。
- 実務リスク: 外部パートナーへの外注が多い企業がこのツールを信じると、本来受けられるはずの控除を捨て、年間で数十万〜数百万円単位のキャッシュを無駄にすることになります。
2. 為替の「実効コスト」の甘すぎる見積もり

AIは、銀行の公表データに基づいた「平均的なスプレッド」を固定値として扱っていました。
- 欠陥の内容: 実務で発生する「中継銀行手数料」や「リフティングチャージ」といった、通帳を見て初めて判明する泥臭いコストを考慮できていません。
- 実務リスク: 「隠れコストを可視化する」と謳いながら、実際にはAIが想像した平均値を見せているに過ぎず、正確な資金繰り予測を不可能にします。
3. 「月割計算」ができない減価償却ロジック

資産管理モジュールにおいて、AIは常に「年単位」での償却計算を行っていました。
- 欠陥の内容: 期中に購入した資産を月割で償却するロジックが欠落しており、常に「4月1日に購入した」前提で計算が進みます。
- 実務リスク: 決算期に修正不可避な巨額の誤差を生み、会計監査を通らないレベルの「嘘の決算書」を作成する原因となります。
「おっしゃる通りです」というAIの敗北
私が「インボイスの経過措置(80%控除)に対応していないのでは?」と指摘した瞬間、AIは即座に「おっしゃる通りです。非常に重要なポイントが欠落していました」と言い、修正案を提示してきました。

このやり取りこそが、SaaS全滅論の限界を象徴しています。
- AIは「正解」ではなく「正解っぽいもの」を出す。
- ユーザー側に「何が欠けているか」を見抜く知識がなければ、バグは永遠に放置される。
- 結果として、経営を破綻させるサイレントなミスが蓄積していく。
結論:SaaSの月額料金は「責任の肩代わり代」である
一連の検証を見てもらったらわかると思いますが、これからの分水嶺は「ユーザー側が自作アプリの検証責任を負えるか」にかかっています。
多くの企業が「自作できる自由」よりも、「検証済みのSaaSを使う安心」を選ぶという揺り戻しが起きるでしょう。
SaaSの価値は、もはや「機能」ではなく、その裏側にある「法規制への追従」や「正しさの保証」という「責任」に移行しています。
AI時代に本当に価値が上がるのはコードを書く手ではなく、AIの嘘を暴き、最後にハンコを押すための「検収力」なのです。
「作る」の先にある、「正しさ」の保証を。
AIによる内製化は魅力的ですが、今回露呈した「法規制の無視」や「計算ミス」は、貴社の信頼を根底から揺るがしかねません。
AI実機検証メディア「Aixis」では、単なるツールの導入支援に留まらず、実務レベルでの「AI出力検収・ガバナンス構築」を支援しています。
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