コールセンター業界が、かつてない転換点を迎えています。
矢野経済研究所の調査(2025年11月発表)によると、2024年度の国内コールセンターサービス市場は約1兆517億円。

一方で、厚生労働省「令和5年雇用動向調査」が示す、「サービス業(他に分類されないもの)」離職率23.1%という数字が象徴するように、今やサービス業界全体で、人手不足は深刻化の一途をたどっています。
そして2025年、ついに業界大手が動きました。アフラック生命保険はOpenAIと提携しコールセンター人員の半減を発表、ベルシステム24は2026年の応対完全自動化を宣言、ソフトバンクはAI音声対話サービス「X-Ghost」の提供を開始しました。いずれも「人員5割削減」レベルの変革であり、もはやAI導入は「やるかやらないか」ではなく「どう進めるか」のフェーズに入っています。
本記事では、コールセンターにおけるAI導入事例を15社厳選し、政府統計・業界白書・調査機関のデータなど一次情報を交えながら解説します。自社に最適なAIの選び方から、導入で陥りがちな失敗パターンまで、ベンダーとは無関係の第三者視点で整理しました。
コールセンターが今AIを導入すべき3つの理由【2026年最新データ】
「AIを入れたほうがいいらしい」という漠然とした認識ではなく、なぜ今なのか。最新データから3つの構造的要因を確認しておきましょう。
深刻化する人材不足と離職率23.1%の現実
コールセンター業界の人材問題は、もはや個別企業の努力で解決できる水準を超えています。
厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」によると、コールセンターが多く含まれる「サービス業(他に分類されないもの)」の離職率は約23.1%で、全産業平均の約15%を大幅に上回っています。業種別では生活関連サービス業・娯楽業、宿泊業・飲食サービス業に次いでワースト3に入る水準です。
さらに深刻なのが新人オペレーターの定着率です。リックテレコム刊「コールセンター白書2024」のデータによると、過去1年以内に採用した新人オペレーターの離職率が「21〜30%」の企業が18%、「31%以上」が16%。つまり3割超の企業で、採用スタッフの約3人に1人が1年以内に辞めている計算になります。
報酬水準もこの傾向に拍車をかけています。厚生労働省「job tag コールセンターオペレーター」(令和6年)によれば、コールセンターオペレーターの全国平均年収は393.6万円。管理職であるSV(スーパーバイザー)でさえ「求人ボックス 給料ナビ」のデータで平均年収440万円と、業務負荷に見合った報酬とは言いがたい状況です。
そしてこの問題は今後さらに悪化します。リクルートワークス研究所の試算では、2030年に日本全体で約350万人の労働人材不足が発生するとされています。コールセンターが現在の運営モデルのまま人材を確保し続けることは、構造的に困難になりつつあるのです。
1兆円市場の構造変化──コストセンターからプロフィットセンターへ
市場全体の数字を見ると、興味深い二極化が起きています。
矢野経済研究所が2025年11月に発表した調査によると、2024年度の国内コールセンターサービス市場規模(事業者売上高ベース)は前年度比3.5%減の1兆517億円でした。コロナ禍で拡大した公共・官公庁向けの大型スポット案件がほぼ終了したことが主因です。
一方で、コンタクトセンターソリューション市場規模は前年度比5.0%増の4,190億円と成長を続けています。AI・クラウド・CRMなどのテクノロジー投資が市場を牽引しているかたちです。
つまり「人によるサービス提供」の市場は縮小し、「テクノロジーによるソリューション」の市場は拡大する──この構造転換が、数字の上でも鮮明になっています。
日本コンタクトセンター協会(CCAJ)が2024年に実施した「2024年度 コールセンター企業 実態調査」でも、数字を公開した51社の売上高合計は1兆6,026億円で前年度比6.7%増加しています。人材不足を背景にアウトソーシング需要そのものは底堅いものの、その内実は人力依存からテクノロジー活用へのシフトが着実に進んでいます。

従来「コストセンター」と見なされてきたコールセンターが、AIによる顧客データの収集・分析によって「プロフィットセンター」へ転換する。そうした潮流が、市場構造の変化からも読み取れます。
2025年、大手企業が動いた──「人員5割削減」の衝撃
2025年は、コールセンターAI導入が「実験段階」から「本番運用・大規模展開」へ一気に進んだ年として記憶されるでしょう。象徴的な3つの動きを確認します。
アフラック生命保険は2025年6月、米OpenAIと提携し、AIアバターが音声で顧客に応対するシステムを開発したと発表しました(日本経済新聞 2025年6月18日報道)。約1,600人のコールセンター担当者を2031年までに半減する計画で、投資額170億円に対し人件費等のコスト削減見込みは500億円。国内の生命保険会社として初の大規模AI人員削減となります。

ベルシステム24ホールディングスは、AIが有人オペレーターのように通話応対する技術「Hybrid Operation Loop(HOL)」を開発し、2026年にサービスを開始すると発表しました(日本経済新聞 2025年8月6日報道)。同社の生成AI Co-Creation Lab.によれば、回答精度を重視しつつプロセス全体の自動化を具体化している点で業界に先例がない取り組みだといいます。人手は従来から5割減の見通しです。

ソフトバンクは2024年3月から日本マイクロソフトと生成AIによるコールセンター自動化の共同開発を進めてきましたが、2025年11月に子会社Gen-AXを通じてAI音声対話サービス「X-Ghost」の提供を正式に開始しました(日本経済新聞 2025年11月10日報道)。OpenAIの音声対話特化型AIモデルを基盤とし、顧客の感情や文脈まで把握した日本語音声対話を実現。業務の5割程度の自動化を目指しています。

3社に共通するのは、「一部業務のAI化」ではなく「業務の半分をAIに置き換える」という大胆な目標設定です。これは、AIの精度が実用水準に達したことを大手企業自身が判断した結果でもあります。
【AI種別で整理】コールセンターAI導入事例15選
ここからは具体的な導入事例を、AIの種別ごとに分類してご紹介します。各事例は「企業名・課題・導入したAI・具体的な成果・出典」を揃えました。自社に近い課題を持つ事例を探す際の参考にしてください。
音声認識・通話テキスト化AI(4事例)
通話内容をリアルタイムでテキスト化し、後処理の効率化やオペレーター教育に活用するタイプです。コールセンターにおけるAI導入の中で最も事例が多く、導入ハードルも比較的低いカテゴリーになります。
事例①:レオパレス21 × AmiVoice Communication Suite3
レオパレス21は、全国5拠点のコールセンターにおけるオペレーター間のスキル差と、FAQ検索の非効率を課題としていました。アドバンスト・メディアのAI音声認識ソリューション「AmiVoice Communication Suite3」を全席に導入し、通話のリアルタイムテキスト化、FAQ自動検索、クレーム傾向分析を実現。オペレーター間の対応品質が均一化され、年間約2,633時間の作業削減につながっています。
出典:日本経済新聞「レオパレス21、全国5拠点のコールセンター全席に音声認識ソリューションを導入」
事例②:JALカード × AmiVoice Communication Suite
JALカードでは、通話データの書き起こしやFAQ検索を手作業で行っており、電子マニュアルは紙媒体換算で約1,000ページに及んでいました。AmiVoice Communication Suiteの導入により、書き起こしとFAQ検索の作業時間を大幅に短縮。さらに、テキスト化された通話記録を人材研修に活用し、新人オペレーターのスキル底上げにもつなげています。
事例③:JR東日本 × 文字起こし・要約AI
JR東日本は、JRE POINTコールセンターに通話内容の文字起こしと要約を行うAIを導入しました。従来オペレーターが手動で行っていた応対履歴の入力が不要になり、後処理時間の大幅短縮を実現しています。
出典:PR TIMES
事例④:富士通 Salesforceサポートデスク × 生成AI
富士通のSalesforceサポートデスクでは、生成AIを活用してサポート業務の効率化に取り組み、業務時間を80%以上短縮するという成果を上げました。段階的な検証を経て実運用に耐える精度を確認した上でスケールさせた点が特徴です。
AIチャットボット・自動応答(4事例)
顧客からの問い合わせにAIが自動で応答するタイプです。定型質問を自動処理することで入電数そのものを減らし、オペレーターの負荷を軽減します。
事例⑤:ビックカメラ × AI自動振り分け+テキスト化
ビックカメラは、「お客様喜ばせ業」の理念を実現するためのDX施策として、コンタクトセンターの効率化に着手しました。従来オペレーターが手動で行っていたメール問い合わせの振り分けをAIで自動化し、人為的なミスを削減。音声データの自動テキスト化により電話応対後の記録業務にかかる時間を約半分に短縮しています。FAQページを新設して入電数の削減にもつなげています。
事例⑥:SMBC日興証券 × AIチャットボット
SMBC日興証券は、NTTコミュニケーションズと連携してAIチャットボットを導入し、問い合わせ対応の品質を維持しながら定型質問への応答を自動化しました。金融業界特有の正確性が要求される場面でも、AIの応答精度が実用水準に達していることを示した事例です。
事例⑦:SBIいきいき少額短期保険 × AIエージェント型ボイスボット
シニア世代向け保険を提供するSBIいきいき少額短期保険では、デジタル操作が苦手な顧客からの電話問い合わせが多く寄せられています。従来のボイスボットでは、話す速度が遅い・途中で言葉に詰まるといったシニア特有の話し方に対応できませんでしたが、モビルスとの共同実証実験で生成AI活用の「AIエージェント型ボイスボット」を検証し、人間らしい柔軟な対話が可能であることを確認しました。
出典:モビルス プレスリリース
事例⑧:横浜銀行 × ボイスボット
横浜銀行は、電話がつながらない「放棄呼」を課題としていました。ボイスボットの導入によって電話からデジタルチャネルへの誘導を自動化し、放棄呼ゼロを実現しています。銀行業務における顧客接点の最適化事例として注目されています。
出典:モビルス導入事例
生成AI搭載オペレーター支援(4事例)
オペレーターの応対をリアルタイムでAIが支援するタイプです。ナレッジ検索の高速化や回答候補の自動提示により、AHT(平均処理時間)の短縮とエスカレーション削減を同時に狙います。
事例⑨:トランスコスモス × 生成AIナレッジ検索
コールセンター業界最大手のトランスコスモスは、オペレーターが難度の高い問い合わせに対応する際、社内ドキュメントの参照に時間を要していました。生成AIを搭載したナレッジ検索システムを導入し、オペレーターが即座に回答を得られる仕組みを構築した結果、上位者への転送(エスカレーション)を6割削減できる見込みとなっています。
出典:日経クロステック「コールセンターが生成AIで効率化、トランスコスモスは『エスカレーション』6割削減」
事例⑩:ベルシステム24 × 生成AI業務自動化
ベルシステム24は、日本マイクロソフトのAzure OpenAI ServiceとGoogle CloudのVertex AIを活用した実証実験を完了しました。実際の通話データをもとに対話の要約やFAQ作成、VOC(顧客の声)の発掘を検証し、応対1件あたりの処理時間を従来比で約5割削減する効果を確認しています。この知見を基盤に、AIとオペレーターが連携する「ハイブリッド型コンタクトセンターオートメーション」の構築を推進しています。
出典:ベルシステム24公式プレスリリース(2023年10月)、日本経済新聞
事例⑪:ソフトバンク × Azure OpenAI(LLM自律思考型)
ソフトバンクは1万種類以上の業務を持つ自社コールセンターに対し、段階的にAIを導入しています。2025年2月には生成AIとRAG(検索拡張生成)を活用した回答支援チャットを導入し、オペレーターへ数秒で回答案を提示する仕組みを構築しました。さらに2025年11月にはワイモバイルのサポートに自律思考型生成AIによる音声自動応答を導入しています。従来の「フロー追従型」(決められたスクリプトに沿って応対する方式)ではなく、LLMが会話内容に応じて自ら必要な情報を収集する「LLM自律思考型」のアーキテクチャを採用している点が最大の特徴です。
出典:ソフトバンク公式プレスリリース(2024年3月18日/2025年11月7日)、Microsoft Customer Stories
事例⑫:カインズ × AIエージェント
ホームセンター大手のカインズは、コンタクトセンターにAIエージェントを導入し、ACW(アフターコールワーク=通話後の事務処理)の削減を進めています。加えて、AIが収集・分析したVoC(顧客の声)データを商品開発や売上向上に活用する取り組みにも着手しており、コールセンターを「コストセンター」から「プロフィットセンター」へ転換する先進事例として位置づけられています。
AIオペレーター・完全自動応対(3事例)
人間のオペレーターに代わってAIが通話対応を行うタイプです。2025年に入り急速に実用化が進んでいる領域であり、大規模な人員最適化につながるインパクトを持っています。
事例⑬:アフラック生命保険 × OpenAI AIアバター
アフラック生命保険は米OpenAIと提携し、オペレーターのアバター(分身)が顧客に音声で応対するシステムを開発しました。2025年8月に導入を開始し、約1,600人のコールセンター担当者を2031年までに半減する計画です。投資額170億円に対し、人件費等500億円の削減を見込んでいます。注目すべきは「50%削減」にとどめた戦略的判断です。契約照会や住所変更、手続き案内といった定型業務はAIに移行する一方、感情に寄り添う相談や信頼構築が必要な非定型業務には引き続き人材を配置しています。完全自動化ではなく、AIと人間の役割分担を明確にした構造改革といえます。
事例⑭:ヤマト運輸 × AIオペレーター(集荷依頼対応)
ヤマト運輸は2020年11月から、法人向けサービスとしてAIオペレーターによる集荷依頼電話の応対を開始しました。音声認識技術と音声合成を組み合わせたAIが自動で対応し、AIでの処理が困難な場合は自動的に人間のオペレーターに切り替わる仕組みを構築しています。導入の結果、集荷依頼時の電話待ち時間が短縮され、顧客満足度の向上に寄与しています。比較的早期に実運用を開始した先行事例としても参考になります。
出典:ヤマト運輸公式
事例⑮:損害保険ジャパン × 生成AI(災害時対応)
損害保険ジャパンは、大規模な自然災害が発生した際に問い合わせが急増するという課題に直面していました。事故サポートセンターには大量の保険金請求が集中し、加えて交通機関の乱れや天候不良によりオペレーター自身が出社できない事態も起こりえます。BCP(事業継続計画)の観点から生成AIの導入を進め、災害時の初期対応を自動化する仕組みを構築しました。
出典:NTTドコモビジネス
AI種別×課題別 導入マトリクス──自社に最適なAIはどれか?
15の事例を見てきましたが、「結局、自社にはどのタイプのAIが合うのか?」が最も重要な問いでしょう。ここでは、AI種別ごとに「解決できる課題」「導入コスト感」「効果実感までの期間」「向いている企業」を整理します。
AI種別×課題 早見表
音声認識・通話テキスト化AI
- 解決する課題:後処理時間の長さ、オペレーター間の品質バラつき、研修コスト
- 導入コスト感:中(月額数十万〜数百万円程度)
- 効果が出るまで:1〜3ヶ月
- 向いている企業:通話量が多い大規模コールセンター、品質管理を強化したい企業
AIチャットボット・自動応答
- 解決する課題:入電数の多さ、24時間対応の必要性、オペレーター負荷
- 導入コスト感:低〜中(月額数万〜数十万円程度)
- 効果が出るまで:2〜6ヶ月(FAQの整備度による)
- 向いている企業:定型質問の割合が高い業種、EC・小売・金融など
生成AIオペレーター支援
- 解決する課題:エスカレーション率の高さ、AHT(平均処理時間)の長さ、ナレッジの分散
- 導入コスト感:中〜高(初期構築+月額数十万〜数百万円程度)
- 効果が出るまで:3〜6ヶ月
- 向いている企業:取り扱いサービスが複雑で膨大なナレッジを持つ企業
AIオペレーター(完全自動応対)
- 解決する課題:人件費、人材不足、BCP対策
- 導入コスト感:高(億単位の投資が必要なケースも)
- 効果が出るまで:6〜12ヶ月以上
- 向いている企業:数百席以上の大規模センターを持つ大企業
業界別・AI導入の最適パターン
業界ごとの特性を踏まえると、以下のような導入パターンが参考になります。
保険業界では、定型的な手続き案内が多いためAIオペレーターとの相性が良いです。アフラックのように定型業務をAIに移行し、感情対応が求められる非定型業務に人材を集中させる「ハイブリッド型」が有効です。また、損害保険ジャパンのようにBCP対策としてのAI導入も進んでいます。
通信業界では、問い合わせの種類が膨大(ソフトバンクの場合1万種類以上)なため、LLM自律思考型のオペレーター支援AIが適しています。定型的なスクリプトでは対応しきれない多様な問い合わせに、AIが柔軟に回答を生成する仕組みが求められます。
EC・小売業界では、商品に関する定型的な問い合わせが多いことから、チャットボット+音声認識の組み合わせが費用対効果に優れています。ビックカメラのようにFAQ自動化で入電数自体を減らすアプローチが有効です。
物流業界では、ヤマト運輸のように特定業務(集荷依頼など)に限定してAIオペレーターを部分導入し、複雑な案件はすぐに人間に引き継ぐ仕組みが成功しやすいです。
金融業界では、正確性への要求が特に高いため、ボイスボットで定型業務を自動化しつつ、オペレーター支援AIで人間の回答精度を引き上げる二段構えが適しています。横浜銀行やSMBC日興証券の事例が参考になります。
コールセンターAI導入で「失敗する」3つのパターン
ここまで成功事例をご紹介してきましたが、実際にはAI導入がうまくいかないケースも少なくありません。成功事例から共通の要因を裏返すと、以下3つの典型的な失敗パターンが浮かび上がります。
パターン①:「PoC止まり」──実証実験で満足し、本番導入に至らない
最も多い失敗パターンです。ベルシステム24の生成AI Co-Creation Lab.も指摘するように、「プロセスの一部に生成AIを使用する事例はあるが、顧客応答のプロセス全体の完全自動化を目指して具体化している例は少ない」のが現状です。
実証実験では一定の成果が出たものの、本番環境への移行段階で「精度が足りない」「運用体制が整わない」「経営層の承認が得られない」といった理由で頓挫するケースが見られます。根本的な原因は、PoC開始時点で「何をもって成功とするか」のKPIが曖昧なことにあります。
成功企業に共通するのは、導入前に「AHTを何%短縮する」「エスカレーション率を何割下げる」「年間何時間の作業を削減する」といった具体的な数値目標を設定し、その達成度に基づいて本番移行の判断を行っている点です。
パターン②:「ツール先行型」──課題を特定せず、流行りのAIを導入する
「生成AIが話題だから導入しよう」という発想で始まるケースです。自社コールセンターの課題を正確に特定しないまま、メディアで話題のツールや営業を受けたツールを導入してしまいます。その結果、機能と課題がミスマッチを起こします。
たとえば、定型的な問い合わせが少ないコールセンターにチャットボットを導入しても、自動応答で処理できる割合が低いため効果は限定的です。逆に、通話量は多いが後処理に時間がかかっているセンターであれば、チャットボットよりも音声認識・テキスト化AIのほうが即効性があります。
前章で整理したように、AI種別ごとに「解決できる課題」は異なります。まず自社の課題を数値で可視化し、その課題に合ったAI種別を選ぶプロセスが不可欠です。
パターン③:「ベンダー依存型」──AIベンダーの提案をうのみにして導入する
AIツールのベンダーが「自社のツールが最適です」と提案するのは、ビジネス上当然のことです。問題は、その提案を検証せずに導入を決めてしまうケースにあります。
複数のAIツールを比較検証しないまま導入した結果、精度が想定を下回る、ランニングコストが予算を超える、自社の業務フローに合わないといった事態が後から発覚します。特に問題なのは、ベンダーが提供するデモ環境と自社の実データでの動作には差が出ることが多い点です。音声認識AIであれば、自社の顧客層の話し方(方言、専門用語、話速など)で認識精度がどう変わるか、実データで検証しなければ正確な判断はできません。
先にご紹介した事例企業の多くが、段階的な検証を経て本番導入に踏み切っているのには理由があります。ソフトバンクは2019年からAI活用を開始し、複数年にわたる検証の上で2025年の本格導入に至っています。ベルシステム24も複数のLLM(GPT-3.5、GPT-4、PaLM2)を比較検証した上で実用化を進めています。
失敗を防ぐために──AI導入前に必ずやるべき5ステップ
では、上記の失敗パターンを回避するために何をすべきでしょうか。成功企業の共通点を踏まえ、AI導入前に踏むべき5つのステップを整理します。
ステップ1:現状の課題を数値で可視化する
まずは自社のコールセンターが抱える課題を、感覚ではなく数値で把握することから始めましょう。具体的には以下のようなKPIを棚卸しします。
- AHT(平均処理時間):通話時間+後処理時間
- エスカレーション率:上位者への転送率
- 放棄呼率:電話がつながる前に切れた割合
- 一次解決率(FCR):最初の応対で解決した割合
- 新人オペレーター離職率(入社1年以内)
- オペレーター1人あたりの月間対応件数
これらの数値が、AI導入後の効果測定におけるベースラインとなります。数値化されていなければ、導入後に「効果があったのかなかったのか」すら判断できません。
ステップ2:AI化すべき業務と、すべきでない業務を仕分ける
すべての業務をAIに置き換える必要はありません。アフラックの事例が示すように、「50%削減」という数字は偶然ではなく戦略的判断です。
定型業務(契約照会、住所変更、料金案内、手続き進捗確認など)はAIとの相性が良いです。一方で、非定型業務(複雑な相談、クレーム対応、感情的なやり取り、解約引き留め、アップセル提案など)は、人間による対応が引き続き必要です。
自社の問い合わせを「定型」と「非定型」に分類し、それぞれの件数比率を把握することが、適切なAI導入規模を判断する基礎となります。
ステップ3:複数ツールを「第三者基準」で比較する
ベンダーが提供するデモ環境だけでツールの優劣を判断することは避けたいところです。重要なのは、自社の実データを使った比較検証です。
音声認識AIであれば、自社コールセンターの実際の通話録音を使って認識精度を測定します。チャットボットであれば、自社のFAQデータを投入して正答率を確認します。ベンダーから提供されるベンチマーク数字は、多くの場合、最も精度が出やすい条件で測定されたものであることを理解しておく必要があります。
可能であれば、ベンダーとは利害関係のない第三者の視点で評価基準を設定し、複数ツールを同一条件で比較することが望ましいです。
ステップ4:スモールスタートで効果を実証する
いきなり全拠点・全業務にAIを展開するのではなく、1業務・1拠点から始めて効果を測定するのが鉄則です。
ソフトバンクはまずワイモバイルの暗証番号照会業務という限定された業務から自律思考型AIの運用を開始しています。ヤマト運輸も法人向け集荷依頼という特定業務からスタートしました。
スモールスタートで得られたデータ(精度、処理時間、顧客満足度の変化など)を分析し、改善を加えた上で横展開します。このアプローチにより、リスクを最小化しながら効果を最大化できます。
ステップ5:導入後の定期検証サイクルを回す
AIは導入して終わりではありません。時間の経過とともに、問い合わせ内容の変化やサービス改定などにより、AIの回答精度が低下する「データドリフト」が起きる可能性があります。
導入後も定期的に精度を検証し、必要に応じてチューニングを行うサイクルを回すことが、AIの効果を持続させる鍵です。ベルシステム24が「AIを継続的に学習させていく『AIナレッジ基盤』の開発」を目指しているのも、この認識に基づいています。
まとめ
2025年、コールセンターにおけるAI導入は実証実験の段階を超え、大規模な本番運用のフェーズへと移行しました。アフラックの500億円コスト削減計画、ベルシステム24の完全自動化構想、ソフトバンクのLLM自律思考型AIなど、業界トップ企業が続々と「人員5割削減」レベルの変革に踏み出しています。
本記事で紹介した15の事例から見えてくるのは、成功の鍵は「どのAIを選ぶか」以上に「自社の課題を正しく特定し、それに合ったAIを客観的に選定できるか」にあるということです。そして、その選定プロセスにおいてベンダーの提案だけに依存するリスクは無視できません。
AIツールは日々進化しており、半年前の「最適解」が現在も最適とは限りません。だからこそ、導入前のツール選定段階で複数の選択肢を公平に比較し、自社データに基づく精度検証を行うことが、投資対効果を最大化するために不可欠です。
AIツール選定に迷ったら──第三者による客観的な検証という選択肢
「自社のコールセンターにはどのAIが最適か」を、ベンダーに頼らず客観的に判断することは容易ではありません。各ベンダーが自社製品の優位性を訴求するのは当然であり、中立的な比較情報は得にくいのが実情です。
Aixis(アイクシス)は、AIツールの導入に関する独立系の第三者検証サービスを提供しています。特定のベンダーとの利害関係を一切持たない中立的な立場から、AIツールの精度・費用対効果・自社業務との適合性を検証し、最適な選択をサポートします。
「導入前にツールの実力を客観的に見極めたい」「複数のAIツールを公平な基準で比較したい」とお考えの方は、以下のページから詳細をご確認ください。
出典一覧
- 厚生労働省「令和5年雇用動向調査結果の概況」
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」(令和3年)
- コールセンター白書2024(株式会社リックテレコム、2024年11月刊行)
- コールセンター白書2023(株式会社リックテレコム、2023年11月刊行)
- 矢野経済研究所「コールセンターサービス市場/コンタクトセンターソリューション市場の調査」(2025年11月発表)
- 日本コンタクトセンター協会(CCAJ)「2024年度 コールセンター企業 実態調査」
- リクルートワークス研究所「Works 179 労働力不足社会」
- 日本経済新聞「アフラック、AIで日本のコールセンター人員5割減 OpenAIと提携」(2025年6月18日)
- 日本経済新聞「コールセンターAI主役 ベル24 26年に応対完全自動化」(2025年8月6日)
- 日本経済新聞「ソフトバンク、生成AIでコールセンター応答業務を代行」(2025年11月10日)
- ソフトバンク株式会社 プレスリリース「日本マイクロソフトとの共同開発により、生成AIでコールセンター業務の自動化を加速」(2024年3月18日)
- ソフトバンク株式会社 プレスリリース「”ワイモバイル”のカスタマーサポートに自律思考型生成AIを導入」(2025年11月7日)
- Microsoft Customer Stories「ソフトバンク株式会社はFoundryを活用してAI駆動型コールセンターを推進」
- ベルシステム24公式プレスリリース「日本マイクロソフトとGoogle Cloudの生成AIを活用した実証実験を完了」(2023年10月)
- ベルシステム24 生成AI Co-Creation Lab.「日本経済新聞に掲載されました」(2025年8月6日)
- 日経クロステック「コールセンターが生成AIで効率化、トランスコスモスは『エスカレーション』6割削減」
- 月刊コールセンタージャパン 2019年1月号
- 労働政策研究・研修機構「コールセンターの組織類型別分析」
