【編集部ポリシー:独立性と透明性について】
本記事は、Aixis編集部が中立的な立場で企画・検証を行ったものであり、ツール提供ベンダーからの金銭的授受、事前チェック、記事内容への介入は一切ありません。
評価結果は、当社の「Aixis Scoring Model」に基づき、客観的な事実のみを記載しています。
「海外製のツールは英語だから不安。やっぱり国産の『イルシル』がいいよね」 もしあなたがそう考えて、安易にイルシルの有料プランを契約しようとしているなら、少し待ってください。
ユーザー数20万人突破、国内トップシェアを誇るAIスライド作成サービス「イルシル」。

日本人好みのデザインが作れると評判ですが、肝心の「AIとしての知能(ドキュメント理解力)」はどのレベルにあるのでしょうか?
Aixisでは今回、他社製ツール(Gamma、Felo)で高評価を叩き出した「決算資料PDF読み込みテスト」をイルシルでも実施。
その結果は、「実務では到底使えない」という、あまりに残酷なものでした。
1. Aixis Scoring:イルシル
まず結論から提示します。
イルシルは「AIスライド作成ツール」というよりは、「AI機能が(おまけで)ついた、テンプレート集」と呼ぶのが正確です。

総合スコア:2.7 / 5.0
実務適性 - Practicality:1.5
PDF読み込みが崩壊: 後述しますが、PDFの内容を読み取るどころか、AIへの指示文(プロンプト)をスライドのタイトルにしてしまうという致命的な挙動を確認。テキスト入力でもグラフ化が行われず、手直し工数が膨大です。
費用対効果(ROI)- Cost Performance:2.0
相対的に低い: パーソナルプラン月額1,680円(税抜) は安価ですが、無料のGammaやCanvaの方が「資料作成の時短」に貢献します。「テンプレート代」として割り切れるかどうかが鍵です。
日本語能力 - Localization:5.0
唯一の救い: さすが国産ツール、フォント選びや「目次」「導入事例」といったスライドの構成パターンは日本企業の好みに完全に合致します。日本語の不自然さは皆無です。
信頼性・安全性 - Safety:3.5
標準的: Google/Microsoftログイン対応、通信の暗号化など基本的な対策はされています。ISMS認証は「取得準備中」とのこと。
革新性 - Uniqueness:1.5
思考していないAI: 文脈を理解して構成を練るのではなく、「キーワードに反応してテンプレートを呼び出しているだけ」という印象が拭えません。
イルシルとは?:「日本人の、日本人による、日本人のための」AI
検証に入る前に、イルシルの立ち位置を整理しておきましょう。
イルシルは、株式会社イルシルが開発・運営する、スライド作成に特化したAIツールです。

その最大の特徴は、「徹底した日本人向けローカライズ」にあります。
海外製のGammaやCanvaが「翻訳された日本語」であるのに対し、イルシルは最初から日本のビジネス慣習に合わせて設計されています。
- 圧倒的なテンプレート数: 日本のビジネスシーンで即戦力となるデザインテンプレートを3,000種類以上搭載。
- 直感的な操作: 「ヘッダー」「グラフ」「表」などのパーツをパズルのように組み合わせる「デザインパーツ機能」により、非デザイナーでも整ったスライドが作れます。
今回検証する「AI生成機能」
イルシルには、キーワードを入力してスライドを生成する機能に加え、「メモやPDFファイルを読み込んで構成案を作成する機能」が搭載されています。
今回はこの機能を使い、決算資料という「重いドキュメント」をどこまで咀嚼できるかをテストします。
検証レギュレーション:Aixis Standard Test Bench
本記事では、他の資料作成AIツールの検証と同様、Aixisが定めた統一基準「Aixis Standard Test Bench」に基づいてテストを行います。
「なんとなく使ってみた」という主観を排除し、「ビジネスの現場で納品レベルに持っていくまでのコスト」を数値化するためです。
【検証条件:Aixis Standard Test Bench (v1.0)】(資料作成・スライド作成AI)
- 入力データ 架空のSaaS企業「株式会社Aixis」の決算短信PDF(https://drive.google.com/file/d/1tqzjNoh-IoEkZxEwtwCGoGIhJ0zRDIRJ/view?usp=sharing)※今回は後述の理由により、テキストプロンプトでも検証
- 指示プロンプト 「添付の決算資料をもとに、投資家向けのピッチデック(スライド資料)を6枚構成で作成してください。トーン&マナーは『信頼・先進的』で青を基調とすること。」
- ゴール(計測終了地点) 生成されたスライドを人間が手直しし、「クライアントに提出できるレベル(80点)」になった時点。
- 測定環境 MacBook Air M3 / Chrome最新版 / 通信速度 100Mbps
それでは、実際に決算短信PDFをイルシルに読み込ませ、検証を開始します。
【実証実験】なぜイルシルは敗北したのか
Phase 1: PDF読み込み機能の「機能不全」
まず、イルシルの「ファイルから生成」機能を使い、PDFをアップロードしました。
生成時間は1分未満と爆速でしたが、出来上がったスライドを見て我々は絶句しました。
生成されたスライドの表紙がこちらです。

……?
決算資料の内容ではなく、「私が入力した指示文(プロンプト)」が、そのままデカデカとスライドのタイトルになっていました。
これはAIがPDFの中身を全く理解せず(あるいは無視して)、入力欄のテキストをただオウム返ししただけの状態です。
「ハルシネーション(幻覚)」以前の問題であり、機能として破綻しています。
Phase 2: テキスト入力でも「グラフ」が作れない
気を取り直して、PDFのテキスト全文をコピーし、イルシルのチャット欄に貼り付けて再生成を行いました。
今度は内容が反映されましたが、その中身はあまりに薄いものでした。
以下は生成された全6枚のスライドです。
- 数字の羅列: 「売上高5.2億円」「成長率240%」といった重要な数値が、ただの箇条書きテキストとして表示されています。 GammaやFeloであれば、この数字を読み取って自動的に「棒グラフ」や「円グラフ」を生成してくれます。しかしイルシルには、「数字を可視化(グラフ化)する能力」がありません。
- 無駄なページ消費: 「2. 業績ハイライト」と書かれただけのページに、スライド1枚を消費しています。 6枚という枚数制限がある中で、中身のない表紙ページを挟む構成力は、ビジネス資料作成においては致命的です。
Phase 3: PPTX出力のバグ
最後に、PowerPoint形式(PPTX)での書き出しを行いました。
しかし、ここでトドメとなる不具合が発生。 「5ページ目の図(画像)が、書き出し後に消滅している」のです。

ブラウザ上では見えていた画像が、パワポにすると消える。 これでは、上司に提出する前に全ページを目視確認し、貼り直す作業が必要になります。
「時短」のためにAIを使ったはずが、これでは本末転倒です。
独自解析:イルシルは「脳」を持っていない?
なぜ、ここまでGammaやCopilotと差がついたのか。 それはツールの「出自」の違いにあります。
- Gamma / Felo: 「LLM(言語モデル)」からスタートしたツール。文章(ロジック)を理解し、それに最適な図解をゼロから組み立てる「脳」を持っています。
- イルシル: 「デザインテンプレート」からスタートしたツール。3,000種類の綺麗なテンプレート があるものの、AIは単に「キーワードに合いそうなテンプレートを選んで、文字を流し込んでいるだけ」に見えます。
イルシルは「デザインパーツ機能」などは優秀で、直感的に操作できるUIは素晴らしいです。

しかし、それはあくまで「人間が自分で作る」場合の利点であり、「AIに作らせる」機能においては、海外勢に数周遅れをとっています。
コストと安全性:企業導入のハードルは?
機能面では厳しい評価となりましたが、コストパフォーマンスと安全性はどうでしょうか。
① 料金プラン(ROI分析)
イルシルの料金体系は以下の通りです。

- フリープラン:0円
- お試し用。スライド生成などの機能制限があります。
- パーソナルプラン:月額 1,680円(税抜)
- AI生成が無制限になり、クレジットも毎月付与されます。
- ビジネスプラン:要問い合わせ
- チーム管理機能などが追加されます。
ROI判定: 「AIツール」として見ると、ROIは低い(2.0点)と言わざるを得ません。 月額1,680円を払って「PDFの中身を読んでくれないAI」を使うくらいなら、月額1,000円台のCanva Proや、無料枠が強力なGammaを使った方が、遥かに高品質なスライドが短時間で完成します。 ただし、「3,000種類の日本人向けテンプレート集」のサブスクリプションとして捉えるならば、デザインの手間賃として元は取れるかもしれません。
② セキュリティ(安全性)
セキュリティに関しては、国内ツールとしての標準的な水準をクリアしています。

- 認証規格: 公式サイトによると、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の認証取得を「準備中」とのことです。 SOC 2 Type II(世界最高水準)を取得済みのGammaやBeautiful.aiと比較すると、客観的な信頼性の担保という点では一歩遅れています。
- データ保護: 通信の暗号化やGoogle/Microsoftアカウントでのログインには対応しており、一般的な利用においては問題ないレベルです。
結論:イルシルは「初心者用の補助輪」である。
検証の結果、イルシルを「決算資料」や「企画書」の作成に使うことは推奨できません。
特に「資料を読み込ませて要約させる」という使い方においては、現時点では実用レベルに達していません。
Aixisの提言:
- イルシルが向いている人:
- パソコン操作が苦手で、Gammaの英語メニューを見るだけで拒絶反応が出る人。
- 内容は自分で考えるから、とにかく「日本っぽい綺麗なテンプレート」が欲しい人。
- イルシルを使ってはいけない人:
- 「AIに分析や構成案作成を任せたい」と思っている人。
- 複雑な数値データを扱う資料を作りたい人。
「国産」という言葉には安心感がありますが、AIの世界においてそれは「品質の保証」にはなりません。
ビジネスで勝つための資料を作るなら、迷わずGammaか、あるいはFeloで構成を作ってからパワポで整えるフローを選ぶべきです。
【編集部ポリシー:独立性と透明性について】
本記事は、Aixis編集部が中立的な立場で企画・検証を行ったものであり、ツール提供ベンダーからの金銭的授受、事前チェック、記事内容への介入は一切ありません。
評価結果は、当社の「Aixis Scoring Model」に基づき、客観的な事実のみを記載しています。
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